認知症ケアのプロが教える「認知症のトラブル」対処法

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認知症の家族にどう対応していいのかわからない。

そういうお悩みを抱えている方は想像以上に多いし、今後ますます増えていくことでしょう。
孤軍奮闘する日々に疲れ切り、投げやりになり、もうどうにでもなれという気分になっている方も少なくないはず。

そんなときは、専門家の知恵を借りてみるのはどうでしょう。
さまざまなケースにおいて、どう対処すればいいのか。

『女性セブン』2019年4月25日号に掲載された「具体的な事例と対処法」をご紹介します。

 

「モノがない・盗まれた」問題



実例

認知症の義母(80}が初デートでご主人に買ってもらったブローチがないと大騒ぎして家中を探すも見つからず、「誰かが盗った。私をバカにして!」と怒り出した。

対処法

まずは”モノがない”という言い分を認めることがポイント。次に大切なことは”バカにされた”という自己否定から救うこと。自分を肯定できることは何よりの安定剤だ。
「例えば、実際はなくしていても『孫の●●ちゃんにプレゼントしたよね?』と、自分の意思で人にあげたことにします。そこにないモノをあったことにして、”ある事情で今ここにないだけ”という考え方をするのです。すると『よかった。なくしたかと思ったわ』という穏やかな言葉を聞くことができました」
できれば、『大事な人からの大事なモノは、なくならないものよ』と、ひと声かけたり、当時の話を聞かせてもらうと、さらに豊かな気分になるはず。

 

「お風呂に入らない」問題

実例



認知症の母(76}が、今日は風邪気味だから、今日は頭が痛いと理由をつけてはお風呂に入るのを拒否し続け、そろそろ匂いが気になってきた。

対処法

認知症になると、何をするにも億劫になり、特に入浴をいやがる人が多くなる。とはいえ、「ずっと入浴していないから、匂うよ」などというのは逆効果。本人が自発的にお風呂に向かうように、話を持ちかけるのがコツになる。「『背中に薬を塗るから服を脱いで』と脱衣所まで誘導し、その流れで『ここで下着も脱いでください』と言ったところ、すんなり入浴してくれたケースがありました。
そのほか、かつて商売をしており、おしゃれで人前に出るのが好きだったという女性に、『明日は町内会の会合だから、おしゃれをしないとね。せっかくだからお風呂に入ってきれにしよう』とオシャレ心を刺激して成功した例もあります」
このように、認知症になる前のその人の暮らしぶりや性格に合う言葉かけをすることがポイントになる。

 

「運転をやめさせたい」問題

実例

運転免許をとうに返納したはずなのに、認知症になって判断力が衰えた父(85)は未だ現役のつもりで毎日のように車のカギと免許証を出せといい、ともすると車に乗り込んでエンジンをかけそうで怖い。納得させる方法はないか。

対処法

「話してもなかなかわかってもらえない時には、貼り紙が役に立ちます。パソコンで『通達 七十才以上の者  車の運転を禁ず 警視庁交通安全課』と作成し、目立つところに貼ります。すると『法律で禁止されたんじゃ、しょうがないか』と納得してもらえました」
他にも”禁止・胡椒・危険・日曜日”などは、書けないが読める。意味もわかるため説明不要。まるで記号のように体に刻まれて生きてる。例えば「年金を下ろしに行く」と銀行へ日参する人に「今日は日曜日」と伝えるだけで、「そうか、休みか」と断念した。
なぜなら、生まれたときから生活上の約束事として、その言葉に沿ってきたから。また沿うことで守られてきた。頭で覚えたことは消えても、体に刻まれた記号は健在。重要事項は説得せず”貼り紙”に頼もう。

 

「デイサービスに行きたがらない」問題

実例

元税理士の義父(80)が「他人様の世話になるのは絶対にいや」とデイサービスの利用を頑なに拒否、言い張るので困る。

対処法

介護サービスをいやがり、家族の負担が重くなるケースは少なくない。そんな時は、本人のかつての職業や趣味、こだわりを利用して役割をつくってあげると、解決の糸口が見つかることも多い。
「元税理士の男性には、『施設の税務処理を手伝って欲しい』と言うと、喜んで施設に来てくれました。また、元教師には『施設にいる大人の指導にあたってほしい』jと、以前の職業を活用し、役割をつくりました。誰かに必要とされていると感じると、本人のやる気と安心を引き出せます」それは前職に限らず、その人がかつて得意だったことでもいい。「編み物が好きな人には『みんなにマフラーを編んであげて』、毛筆が得意な人には『壁に貼るお知らせを書いてほしい』など、特技が生かせる役割でお願いすると、みんな生き生きとしてきます。もちろん、マフラーも貼り紙も、実際に施設で活用させていただいたので、一石二鳥になりました」認知症になっても、昔とった杵柄は(きねづか)は健在ということだ。

 

「薬をのんでくれない」問題

実例

糖尿病で、認知症になる前から薬を飲んでいた父(79)は、もともと薬嫌いだったが認知症が進行するとますます薬を飲まなくなった。

対処法

「歯が弱く入れ歯をしている人に『これは歯が丈夫になる薬で、お医者さんがお父さんのために特別に出してくれたのよ』と伝えると、のんでくれました。ここのポイントは”特別”、”あなただけ”という言葉かけです。人は誰しも自分が特別扱いされると嬉しいもの。それは認知症になっていても同じです」
ほかにも、「みんなに内緒で食べてみない?」と、マーブルチョコに薬を混ぜて渡したところ、口に入れてもらえたという。
”内緒”という言葉も効果は絶大。”自分は優遇されている”と感じられる言葉かけをすることが重要となる。

いかがでしたか。

ちょっとだますようで気が引けるような部分もなきにしもあらずですが、見方や考え方を変えれば「自分とは違うもうひとつの現実を生きている人」という、いい意味で距離をおいた見方、捉え方ができるし、それが問題解決、対処法のコツなのだろうなということがわかります。

否定するのじゃなく、肯定。
必要としていることを伝え、特別なんだと思わせること。

同じ1つの出来事にしても解釈は幾通りでもあるわけですから、よりその方に寄り添う形での解釈にシフトしていけば、お互いが無駄に疲弊することも少なくなるように思います。認知症患者も6年後の2025年には5人に1人ということですから、是非知っておきたい対処法ですね。

(出典・引用元:『女性セブン』2019年4月25日号)